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「 拓魂 第6号」 昭和48年12月25日発行

『夏の夜の夢物語』

学45期 大橋 信夫

昭和四十八年夏も去り、既に十月秋の紅葉たけなわの季節となりました。今更夏の夜の物語でもないが、前号までずっとこの題で書きつづって来ましたので御容赦頂きたいと思います。  

今まで生意気にも経済界の見透しを、自分なりの考えで述べてきましたが、見事その弱気が外れ、物価は上昇につぐ上昇を続けております。品物物資があり余り、且つインフレを続けるスタグフレーションも、次の転換を迎える事態となりました。即ちスランプフレーションなる新語の通り、どうにもこうにも止まらないインフレ、どうしようもない物価上昇、どんなに金融引き締めしても、止まらないインフレーション。大変な事になりました。日銀が躍起になって金融引き締めを続けても止まらないインフレ・・・・・。

昭和八年には一万円あれば大邸宅が建てられた。戦後価値が暴落したと云っても、昭和二十五年には、まだ高級背広が一着買えた。今の一万円は、どの位の価値だろうと思うと、寒気を感じます。いつの間にか、電力値上げ、ガソリンの相次ぐ値上げ、米、小麦、ビール、牛乳、タクシー料金全て大巾に値上げして居ります。当然給料も上がって居ります。毎年の春闘を苦々しく思ってましたが、今年末はインフレ手当闘争もするとか。

給料の上る以上に物価が上がる。特に土地の値上がりなど物凄いものです。私が不動産の開業した時昭和三十五年、沼津市上香貫の住宅地は一等地で坪一万円でしたが、本年は坪当たり二十万円位して居ります。東名沼津インターチェンジ付近は、昭和三十五年頃は、一反歩(300坪)で十万円位(坪330円)でしたが、東名高速道路開通し、インターチェンジ前のアクセス道路沿いは、驚くなかれ、坪二十五万円位に大暴騰して居ります。実に六百倍強です。

銀行預金の金利も若干上り、二年もの定期で年六・五%です。年間物価上昇が十五パーセントとすると、真面目に貯金していた人は、確実に年八・五%の損となります。物価高で、日頃散々苦しめられた上、生活の中から漸く蓄えた金を年々目減りさせられる事で、二重にインフレに叩きのめされて居るのです。このままでは、親譲りの土地でも持っている人は、インフレで益々潤っていきます。その一方で、持たざる者は貨幣価値の下落から一層苦しくなって行き、この両者の間の貧富の差は益々大きくなって行きます。

この社会状態は極めて不健全です。このあとに来るもの、それは政治危機です。そして、この高物価政策のつまるところ、日本経済の崩壊以外にない。極言すれば、パニック状態へ追い込まれるのであろう。このインフレを納めて、正しい政治をする政府が現れなければ大変です。それには思い切った不況政策以外に助からない。その不況政策をとれる内閣が出来る以外に我々国民は共倒れです。そしてその不況の中から、労働の尊さ、金の有難さ、物を大切にする心が生まれ、健全な生活へ戻る事を期待して止まない。



拓魂