トップ > 会報「拓魂」 > 「中国による対日戦略の考察」(学部83期 小畑邦夫)
「 拓魂 第47号」 平成28年10月10日発行

『中国による対日戦略の考察』

学部83期 小畑 邦夫

はじめに

前回の原稿作成から一年余りたちましたが、この間、世界情勢と日本を取り巻く環境は、大きく変化し、原稿のテーマを考えながらも、次々に発生する事件や、事案等のため、何を題材にするか新たなニュースに困惑するばかりの一年でした。

イスラム国によるテロ、難民のヨーロッパ移民問題、ロシアによるクリミア併合、英国のEU離脱、目をアジアに移せば、中国の軍事力を背景とする海洋進出、そんな世界情勢をよそに、現在、アメリカでは大統領選挙真っ最中、共和党トランプ氏、民主党ヒラリー氏と、激烈な戦いが行われているが、その結果、日米同盟と世界情勢が再度変化するというシナリオも私たちは受けとめていくことが必要になるだろう。

今年7月10日、第24回参議院選挙が終了し、改憲勢力が三分の二を超える結果になったことは筆者としては喜ばしい限りと感じる。 反対に、これに対して批判的な人たちからは日本が戦争を始めるためだとか、アメリカの戦争に追従するだとか、国民の権利を縛るものだという誤った価値観が報道されがちだが、有権者は、それはどうあれ現政権の継続を望んでいることが結果として表れただけであろうかと感じる。

その理由の一つが、近年の中国による行動が常軌を逸しているためだろう。 また、北朝鮮の金正恩体制による各種ミサイルの発射も見過ごすことが出来ない。 こうした情勢を考慮していけば、やはり、平和慣れした日本人も、日本を取り巻く環境が、かつてないほど変化していることに疑問を抱かない人はもはやいないだろうと感じる。

戦後、嘗てないほど安全保障という事を耳にする場面が増えている。
「日本が戦争に巻き込まれるなんてことはありやしない」 
 もはや、そんな悠長なことを言っている時代ではなくなっているということを私たち日本人が自覚をしなければいけない時代にきていることは間違いない。 世界で起きている事実が私たち日本人への警鐘として受け止めていかなければならない現実なのである。

こうしたことから二つの題材をテーマに中国を考察していくことにする。

中国による対日歴史戦 

先ずは、中国が日本に対し、行っている歴史戦ですが、今年の6月19一日(日)浜松市中区にある地域情報センターで、明星大学教授の高橋史朗先生による講演会が開催され、筆者も招かれ講演を聞く機会を得ました。高橋先生は、埼玉県教育委員長、自治省の青少年健全育成調査研究委員会座長、男女共同参画会議議員などをご歴任され、現在、安倍内閣の教育分野で大きな影響力を持つ教育再生のエキスパートの一人である。講演の冒頭、国連の女子差別撤廃委員会の対日審査の最終見解案に、皇位継承権が男系男子の皇族だけにあるのは女子差別だとして、皇室典範の改正を求める勧告が盛り込まれていたお話をされた。これは、日本側が、3月4日にジュネーブ代表部公使が女子差別撤廃委員会の副委員長と会い、皇位継承制度の歴史的背景を説明し「女子差別を目的とするものではない」と削除を求めたことですんでのところでおさまった事になったようだが、こうした条項をこれから何時何時だされるか分からない。また、中国は「南京大虐殺」に続いて「従軍慰安婦」史料を世界記憶遺産として登録申請の準備を進めている。 ユネスコはパリの本部で開催された執行委員会で、世界記憶遺産の運用指針となるガイドラインの改定に関する決議がされ、その目的として

  1. 最も適切な技術により世界資料遺産の保存を促進すること。
  2. 史料遺産の普遍的利用を援助すること。
  3. 史料遺産の存在と重要性について、世界の認識を促進すること。

と定め、「南京虐殺」の登録は中国によるユネスコ政治利用だとして、記憶遺産の運用の見直しを日本政府は強くユネスコのボコバ事務局長に要請した。今後、中韓がこれに対しての反対が予想されるようだが、中韓、とりわけ中国による日本へ歴史戦、心理戦、宣伝戦は予断を許さない。大切な事は、日本の中の敵、すなわち反日日本人をいかに理解させていく のか?それには、価値観の違う互いの認識者同士で、議論し合うことも大切であるとして締めくくった。

中国による南シナ海への海洋進出が止まるところを知らない

筆者は天安門事件前後に中国留学の経験があり、その間約三年近く中国で生活をした。

私は、その時代の記憶をたどりながら中国がなぜ現在の様な姿になってしまったのか少し書いてみたい。

日中友好がこの名前どおりの時代。というと田中角栄総理が中国を初めて訪問した時代から1987年頃かも知れない。いや、その後も経済関係にて互いに良きパートナーとして友好を甘受していたことだろう。 

筆者が中国の土を踏んだのは1987年の秋ごろかと記憶している。 東京の某先輩(拓大)関連の会社の関係で私の留学は実現した。 もちろん今でも先輩方には心から感謝している。

私自身、大学在学中から中国大陸に興味を持ち、関係諸本を読みふけり、夕日が沈む見渡す限りの大陸をかつての大陸浪人いや、馬賊よろしく駆け巡りたいという拓大人(戦前)ならではの夢があった。

中国に渡った後は全てが面白く、毎日を有意義に過ごした。 まだ文化人革命1966~1976の臭いが少し残る部分と、経済発展に向かう過程のいわば日本の1960年代を思わせる時代でした。 同世代の人間にとったら当時はバブルが始まった頃、何もない中国にいるより、日本で青春を謳歌していたほうが良いのに違いないのだが、以後、筆者は貴重な体験をしていく事になる。それは、近代中国史において、一つの転機にもなった悪名高き天安門事件である。 しかし、文章に限りがあるためここではその経過等は割愛させていただく。

さて、筆者が思うに、この天安門事件を機に中国政府が変わっていったことが一つある。それは、いままで以上に反日政策にも舵を切っていったことである。 あえて言えば、民主化を求める国民への宥和策として経済活動の自由化を進めた。

一方で反日教育をより一層進めた。 その理由は、中国共産党の正当性と存在意義かと感じる。 これは、中国の歴史が証明している通り、易姓革命によって成立した政権は、民衆の反乱により崩壊してきたのが中国という国家の歴史である。

中国五千年の歴史は、その都度、広大な中国大陸を制覇した民族であったり、集団であったりと、絶えず新たな歴史が刻まれ現在に至っていると言ってもよい。 だからこそ政権に対する民の動向が政権を維持する彼らにとってもっとも気になる存在なのだ。

天安門事件、そしてその後の、経済成長により格差が拡大した中国社会にとって民衆の不満を抑え、政府の正当性を維持するために日本を悪者にする理由がその一つだ。 昨年、抗日戦争勝利パレードはまさしくその表れである。

反面、国内の民衆の不満や、少数民族問題も年々増え、年間数万件にも及ぶ事件が発生しているとの統計もある以上もはや悠長な事はいってはいられない状況だと考えられる。 しかし、日本悪玉論政策をやりすぎると、今度は、ブレーキが利かなくなり、それによって自らが振り回される結果になりかねない。

また国内問題として大事な事は、中国共産党政権内の権力抗争もその一つと考えられる。 例えば元重慶市長の薄キ来事件もそうした要因だろう。 そして、薄キ来や周永康という大物政治家を倒してきたのが習近平なのである。 その習近平がスローガンと掲げているのが「中華民族の偉大なる復興」すなわち、明代ないし清代の国家判図を取り戻し、海洋国家として九段線はもとより、第二列島線までも中国が管理するというから周辺国家にはたまったものではない。

この偉大なる復興には、アヘン戦争以後、欧米列強や日本に虐げられたのが中国の歴史であり、それを見返す手段として戦後秩序は欧米が中心のものであり、その秩序も変更しようというのでは、米国ならず国際社会のいずれも不信感を持つことは言うまでもない。

今、思うと、かつて筆者が中国に暮らした時代は、それなりに中国の対する愛着が感じられたがさすがに今は心配が尽きない。 もう一つ、中国政府が考える要因として、なぜ、日本に対してかつてないような乱暴な発言をするのか? 彼ら(中国政府)からすると、日中の力関係がすでに逆転しているという発想がそこにある。 これは、東京国際大学教授の村井友秀先生の説だが、日本が、アメリカに次ぐ第二位の経済大国になった際は、それに相応しい友好をしていたが、二十一世紀に入り経済力と軍事力で中国は日本を追い越しか。今や、世界二位の経済大国になり、かつて兄としていたロシアを今や妹と見下す中国にとって日本はすでに対抗できる同等の国ではないとしている節がる。 こうしたことから中国は尖閣諸島の領海に侵入して現状を変えようとしている。

著者は、これに加えて日本が日中国交正常化以降、中国分析を見誤ったのではないかと想像する。 以前から、中国の動向が議論されてきたが、わが国の政治家、官僚、民間に至るまで、中国という国に対し、ある種の幻想を抱いてきたことは事実である。 その結果、中国に対し、度重なる弱腰のメッセージを与え続けてきたことが、ここまで現状を悪化させてしまった要因であるように思えてならない。

この原稿を書いている最中、再度ニュースが届く。 8月7日、”中国海警局がわが国尖閣諸島周辺の十三隻もの公船が接続水域に入り、周辺では約300隻もの中国漁船が航行している。”とういう事だ。 すわ!理屈はどうであれ、南シナ海問題で、国際社会の避難を浴びたが、臆することなく次の目標は東シナ海になることは間違いないようだ。

先述したが、軍事的パワーが今の中国を形成する骨格である。 私は、中国が本格的に軍事力を強めなければいけないと感じ始めたのは、米国が中心に行った湾岸戦争からだと感じる。 その圧倒的な米国の軍事パワーを、彼ら(中国共産党)はテレビ中継を通じて驚きをもって見ていただろう。時は1990年頃、以後、中国は軍事力を大幅に近代化し、量的にも増やしていくこととなるのだが、その状況を見て見ぬふりをしてきたのが日本なのである。

今後、中国による国家方針が変わらない限り、私たち日本人は、戦後初めて、国家的、軍事的脅威を現実的に体験する事になる公算は間違いなく大きいだろう。 こうした問題を防ぐには、やはりしっかりした抑止力が必要であることはいうまでもない、米国との同盟ももちろんだが、大切な事は自らの国は自らで守るという普遍的な覚悟である。 それを実現するのは軍事力の強化以外にあり得ない。

(終)



拓魂


協賛

静岡産業社松栄石油 足立会計事務所 ヒロキ 海野製作所 ナカネ不動産